東尋坊 木陰プロジェクト 

1. プロジェクトの概要

<東尋坊 森プロジェクトとは>

 東尋坊環境づくり事業の一環として様々なプロジェクトが行われる中で、森プロジェクトは東尋坊に隣接する松林を生かし、東尋坊内での周遊滞在を活性化させるためのプロジェクトとして計画されました。本プロジェクトでは松林を散策する際の休憩ポイントとして木陰テラスと称したベンチを制作することが計画され、福井県において家具のデザイン制作を行う弊社(株式会社Tanzen)にベンチのデザインと制作をご依頼いただきました。

<福井県産の杉と東尋坊の桜、松の活用>

 本プロジェクトではご依頼いただいた時点で東尋坊内にある、危険木の松や台風によって倒れた桜の木を使うことが計画されていました。これらの木の伐採は東尋坊を管理する専門の業者の方にお願いしましたがその後の木材の製材工程は弊社が請け負いました。立木の状態から家具を作るという、非常にやり甲斐のあるプロジェクトとなりました。

2. 打ち合わせからご提案

<現地調査>

打ち合わせはまず現地調査から始まりました。現場が抱えている問題や松林内の樹木の状況を調査しました。東尋坊内の松林からの眺めは圧巻で、ここに設置されるベンチはその美しい風景を損なわないようにすることが重要だと感じました。そのため、景色を尊重するデザインを考える必要があると強く認識しました。

また木陰テラスに求められる役割について話し合いを進めるとともに、海岸に設置することから生じる塩害等に対する対策も同時に議論しました。

↓ 現地調査時写真2 ベンチの設置位置から眺める東尋坊の風景

↓ 現地調査時写真2  台風によって倒れてしまった桜の木

3,デザインの提案

打ち合わせを重ねた結果、ベンチのデザインについて以下の3点をコンセプトとし、デザインを進めることとしました。

・雄大な日本海の借景を最大限に活かし、そこに馴染むデザインとすること

・幅広い世代の訪問者にとって、くつろぎの場となるデザインとすること

・日本海岸の厳しい環境を考慮し、座面の木材が取り替え可能なサスティナブルなデザインとすること

模型を使ったご提案や3Dパースを用いたご提案を経て、最終決定案へと辿り着きました。

最終決定案では、ベンチの脚は耐久性と安全性を考慮し、亜鉛メッキを施したスチール製としました。また、座面は福井県産の杉材をメインに、東尋坊で伐採された桜と松を使用することとなりました。

4,製作過程

 従来我々が家具を制作する時は製材され乾燥した板を買ってくるのが通常です。しかし今回は立木の状態から樹木を伐採し製材する工程を経る必要がありました。これは我々にとっても初めての経験で、立木の状態が加工と共に変わっていくのを目の当たりにできる貴重な経験となりました。

 また、設置位置は国定公園ということもあり、地面に穴を掘ってベンチを設置するという作業は簡単なものではありませんでした。東尋坊まちづくり株式会社さんが事前の申請などに尽力してくださいました。設置作業では、関係者の方々と最終設置箇所を確認し、周りにある大切な樹木を傷つけないよう配慮しながら設置を行いました。

↓ 東尋坊で伐採され搬入された木材と製材後の木材

↓  東尋坊で設置の様子

  1. ベンチの完成とその後の反響

 このプロジェクトが始まりから完成するまでにはほぼ1年が経過しました。 我々にとっては非常にスパンの長いお仕事です。しかし、その時間を通じて、我々は日常的には経験することのない、樹木の伐採から製材、さらには乾燥までの一連の過程を経験する機会に恵まれました。これは、私たちにとって非常に貴重な体験となりました。

設置後のベンチは、時間と共にその姿を変えています。元々は赤みを帯びた鮮やかな杉材も、自然の雨風の影響を受けて徐々にグレー色に変色しています。しかし、そのグレー色は、自然界だけが生み出すことのできる、独特の風合いを持っています。

 我々が写真撮影のために現地を訪れた際、家族連れの訪問者がベンチに座って楽しんでいる光景に遭遇しました。少し離れた場所からその様子を眺める中で、このプロジェクトに関わることができたことに、心からの感謝の気持ちを覚えました。

<施主> 東尋坊まちづくり株式会社

<デザイン・製作> 株式会社 Tanzen

 <木材の製材・乾燥> 中西木材株式会社

<スチールの製作> 株式会社 TRUNK